筋膜リリースとファシアの本質 ― 専門家が考える臨床の視点

こんにちは。拝志フィジカルセラピー ファシアラボです。
今回は、筋膜リリース(Myofascial Release, MFR)が「ファシアは人間の素材の本質を捉えているのではないか」というテーマについて、学術的な知見と私自身の臨床での考えを交えてまとめたいと思います。なぜなら、本質が分かっているのと、分かっていないのでは、問題解決のプロセスさえも最初からズレてしまいます。

まず本質とは、「物事の隠れた一番大事な部分」のこと。この隠れたという部分が見えにくいから、それは何なのか?を照らし出す作業。

症状の本質とは?隠れた部分とは?何なのでしょうか?

ファシアは「全身に存在する素材」

Schleipら(2012)は、ファシアを「単なる結合組織の膜」ではなく、構造・感覚・免疫など多面的に働くシステムと定義しています。

  • 構造的機能:テンセグリティ構造として張力を分散(Ingber, 1998)。
  • 感覚的機能:自由神経終末やRuffini小体など、豊富な神経受容器を含む(Stecco et al., 2007)。
  • 免疫・代謝的機能:線維芽細胞の活動によるリモデリングや炎症制御(Langevin et al., 2011)。
私の考え

まず大切な問いがあります。「症状はどこから生じるのか?」 というシンプルな疑問です。

結論から言えば、身体には「ファシア(筋膜)が存在しない場所はありません」。なぜなら、細胞をその場にとどめ、組織のまとまりをつくっているのはファシアだからです。

つまり、ほとんどの症状にはファシアが関与しているといえます。さらに重要なのは、ファシアには多くの神経が分布している点です。そのため、痛み・しびれ・違和感といった症状と密接に結びついているのです。

したがって「症状はどこから生じるのか?」という最も根本的な問いに対する答えのひとつは、**「ファシア(筋膜)」**だと考えられます。

とても、シンプル!

まず、身体のほとんどがファシア

そこに神経が多く存在する

それなら=「症状はファシアから」ですよね?

そのためにファシアを理解することは、そのまま症状の背景を理解することにつながるのです。

多くの神経細胞が存在しているということは「症状」と関わっていると言える。

筋膜リリースの作用 ― 素材の特性に寄り添う

筋膜リリースは、まさにファシアの物性や細胞応答を活かしたアプローチです。

  • 粘弾性・非ニュートン性:ヒアルロン酸を主体とする基質は、持続的な圧や温度変化で粘度が下がり、滑走性が改善する (Yahia et al., 1993)。
  • 細胞レベルの応答:持続的な伸張刺激は線維芽細胞の形態を変化させ、サイトカインを放出する(Langevin et al., 2005)。
  • 神経学的効果:ファシアを介した固有感覚入力の変化が、自律神経系や筋緊張に影響しうる(Schleip, 2003)。
私の考え

ここで重要なのは「治療の考え方」です。なぜその圧を選ぶのか、なぜその方向に介入するのか――その「なぜ」の部分に本質が含まれています。考え方を誤れば、手技の方向性はまったく違う結果につながります。つまり、筋膜リリースの本質は“手技”そのものではなく、「考え方の精度」にあると私は考えています。

例:持続的な圧や温度変化で粘度の変化

臨床的意義 ― 症状にとらわれず背景を診る

筋膜リリースは様々な領域で注目されています。

  • 慢性腰痛:胸腰筋膜の滑走不全が腰痛と関連(Willard et al., 2012)。MFRは可動性改善と痛覚過敏低下に寄与。
  • 術後癒着や瘢痕:リモデリング過程に介入し、組織の柔軟性を回復(Bordoni & Zanier, 2014)。
  • 自律神経症状:MFRがストレス応答や睡眠改善に関与するという報告もある(Davis, 2014)。
私の考え

症状だけを追いかけると治療は迷走します。大切なのは、その症状が「ファシアと神経の相互作用の表れ」であると理解し、その背後にある“本質”をどう見極めるかです。治療家の「考え方」がそのまま患者さんの回復の方向性を決める、と強く感じています。

まとめ

筋膜リリースが「ファシアという人間の素材の本質を捉えている」といえる理由は次の通りです。

  1. ファシアの粘弾性・非ニュートン性に沿った持続的アプローチ
  2. 線維芽細胞を介したリモデリング誘導
  3. 豊富な神経ネットワークへの影響による自律神経・感覚系の調整
  4. 治療の考え方そのものに「なぜ」を問い、方向を誤らない姿勢
私の結論

筋膜リリースは単なる「技術」ではなく、**ファシアの本質を理解し、その背後にある神経-結合組織ネットワークに働きかける“哲学的アプローチ”**だと考えています。

📚 参考文献(抜粋)

  • Schleip R, Findley TW, Chaitow L, Huijing PA. Fascia: The Tensional Network of the Human Body. Churchill Livingstone, 2012.
  • Stecco C, et al. Italian J Anat Embryol, 2007.
  • Langevin HM, et al. FASEB J, 2005.
  • Willard FH, et al. J Anat, 2012.
  • Bordoni B, Zanier E. J Multidiscip Healthc, 2014.
  • Davis C. Myofascial Release: The Search for Excellence. 2014.

拝志フィジカルセラピー ファシアラボは、20年前から筋膜に注目し、慢性腰痛改善に特化した施術を行っています。
「その場しのぎではなく根本改善を」――そうお考えの方は、ぜひ私たちにご相談ください。

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投稿者プロフィール

拝志陽介
拝志陽介拝志フィジカルセラピー代表
私が「筋膜(ファシア)」に注目するようになったのは、オーストラリアのカイロプラクティック大学で学んでいたとき、自分自身が背中の痛みや頭痛に悩まされたことがきっかけです。
その痛みの原因が「筋膜」にあることに気づき、出会ったのが、筋膜に振動刺激を与えてアプローチする「マイオセラピー」でした。
自分の身体でその効果を実感できたからこそ、この施術法は自然と、私の施術の中心になっていったのです。