人は秩序だって腰痛改善できるのか?

「秩序」だけで人は回復できるのか?

一般的な医療やリハビリでは、姿勢を整え、運動を規則的に行い、生活習慣を安定させるなど「秩序だった管理」が重視されます。確かにこれらは健康に役立ちます。

しかし、私自身が体の改善を経験する中で、「痛みが一時的に増す」「別の場所が痛くなる」といった、通常は“良くないこと”とされる現象を体験しました。これは特別なことではなく、他の方にも起こり得る現象です。

私自身もかつては「施術は秩序だった経過で進むことが正しい」と考えていました。なぜなら、痛みは“悪い状態”を示すものだと思い込んでいたからです。けれども実際には、痛みは身体からの大切なサインであり、感じるべき情報なのです。痛み止めを否定するわけではありません。薬も必要な時には人を助けます。ただし、痛みをただ消すだけでは、本当の治癒につながらない場合もあるのです。

筋膜リリースの第一人者ジョン・F・バーンズ氏は、こう語っています。
「成長や変化、治癒のためには一度カオス(混沌)に入る必要がある。その後、心の働きによって私たちはより高いレベルへ再組織化される」

つまり、人が本当に変わるときには「秩序」だけでは不十分で、一度カオスを通過する必要があるということです。その過程は時にジェットコースターのように揺さぶられるものですが、その先にこそ本当の回復があります。

筋膜ケアの現場でも同じです。秩序を取り戻す前に、必ず「カオス」と呼ばれる時期を通る。この視点を知ったとき、私自身の中のモヤモヤが晴れ、施術に対する考え方も大きく変わりました。

カオス(混沌)と筋膜リリース

筋膜リリースの施術を受けていると、**「痛みが一瞬強まる」「感情が急に揺さぶられる」**といった体験をされる方がいます。これこそが体が「相転移」を迎えているサインです。

「相転移」とは、ある物質が外部の条件によってまったく別の状態に変わること。身近な例では、水が氷や水蒸気に変化する現象です。

つまり、筋膜リリースの中で訪れる不安定な時間は、体と心が新しいバランスへと移行するための通過点なのです。

カオスとは何か? ― 科学から見た“混沌”

「カオス」と聞くと、ただの無秩序や乱れをイメージする方も多いと思います。ですが科学におけるカオスは、もっと奥深い意味を持っています。

カオスとは、**わずかな違いが時間とともに大きな変化を生む「非線形な性質」**を指します。これを「バタフライ効果」とも呼びます。

小さな羽ばたきが地球の裏側の天気を変えるように、体の中でも小さな刺激が全身の大きな変化につながるのです。

人体は“複雑系”というシステム

私たちの体は、筋肉・神経・血管・臓器・ホルモンなど、無数の要素が互いに影響し合いながら働いています。まさに「複雑系」と呼ばれるシステムです。

このような複雑な仕組みでは、常に予測どおりの反応が起こるとは限りません。
むしろ、ある程度の複雑さや混沌があるからこそ、体は外の環境に適応し、健康を維持できるとも言われています。

筋膜リリースとは? ― 複雑系に働きかけるケア

筋膜(ファシア)は、全身を包み込みつなぐネットワークです。健康な筋膜はやわらかく、水分を含み、動きをスムーズにします。

しかし、ケガや炎症、長時間の同じ姿勢、ストレスなどが重なると、筋膜は硬くこわばり、癒着を起こします。これが慢性的な腰痛や背中の凝りの原因となります。

筋膜リリースは、やさしい持続的な圧でこの癒着を解放する方法です。全身をつなぐ筋膜は複雑系ですから、一か所の解放が全身の変化につながることがあります。

カオスを経た再組織化 ― 相転移(そうてんい)のプロセス

筋膜リリース中に体が一時的に混乱したような反応を見せるのは、まさにカオスの瞬間です。

この状態を経て、体は新しい秩序を作り出し、より高いレベルへと再組織化されます。
たとえば、凝り固まった背中が解放されると、呼吸が深くなり、姿勢が自然に整い、内臓の働きにまで良い影響を及ぼすこともあります。

まるで水が氷から液体へ、液体から水蒸気へと形を変えるように、体も相転移を通じて質的な変化を遂げるのです。

筋膜リリースとカオス理論の共通点

両者をつなぐキーワードは「小さな変化が大きな変化を生む」という点です。

  • 予測できない癒着パターン
    筋膜のこわばりは単純な因果関係では説明できず、複雑な広がりを持ちます。
  • 自己調整能力
    施術によって制限を解きほぐすと、体は自ら新しい秩序を作り出します。
  • 小さな刺激が大きな変化へ
    指先のわずかな圧力が、体全体の痛みの改善や可動域の向上につながることがあります。
  • 複雑性の回復
    不健康な筋膜は単調で硬直した状態になりがちですが、リリースを通じて多様な動きが取り戻されます。

これらはすべて、カオス理論と重なり合う考え方です。

なぜ痛みや揺さぶりを感じるのか

施術中に「少し痛い」「感情が動く」と感じるのは、決して悪いことではありません。
それは体が自己調整に向けて動き出している証拠です。

もちろん、不快な場合は遠慮なく「緩めてください」と伝えていただいて構いません。施術は患者さんの安心感と信頼関係の上でこそ成り立ちます。

まとめ ― カオスを恐れず、その先の秩序へ

人の体は、常に秩序だったまま良くなるわけではありません。

一度カオスを通り、相転移を経て、新しい秩序へと進む――それが本当の変化です。

筋膜リリースは、そんな体の複雑な仕組みに働きかけ、根本から改善を導く方法です。

慢性腰痛や背中の凝りで悩んでいる方にこそ、秩序だけでなく「カオスを経る」プロセスを理解していただきたいと思います。

拝志フィジカルセラピーファシアラボでは、科学的な知見と経験に基づいた筋膜ケアで、あなたの体が持つ自然な自己調整力を引き出し、健康な毎日をサポートしています。

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投稿者プロフィール

拝志陽介
拝志陽介拝志フィジカルセラピー代表
私が「筋膜(ファシア)」に注目するようになったのは、オーストラリアのカイロプラクティック大学で学んでいたとき、自分自身が背中の痛みや頭痛に悩まされたことがきっかけです。
その痛みの原因が「筋膜」にあることに気づき、出会ったのが、筋膜に振動刺激を与えてアプローチする「マイオセラピー」でした。
自分の身体でその効果を実感できたからこそ、この施術法は自然と、私の施術の中心になっていったのです。